LAST LETTER




―― 安倍泰明さま



こんばんわ、泰明さん。

藤姫にまた物忌みだって言われたので文を出します。

明日は一緒に過ごしてください。お願いします。



・・・もうすぐ玄武も封印できますね。

そうしたらきっと雨が降ってみんな良くなって・・・私は帰れるんでしょう。

だからきっと今度が最後の物忌みだと思います。

そう思ったら、泰明さんと過ごしたくて文を書きました。

こんな事書いたらきっと泰明さんはまた無駄だって言うんだろうけど。

いつも無駄な言葉なんかを嫌っていたもんね。

慣れるまでは私も随分傷ついたんだよ?

あ、でも今は全然平気です。

泰明さんは本当は優しい人だってわかったから。

言葉は足りないけど、私の事いつもちゃんと心配してくれているって。

でも・・・

いえ、なんでもありません。

泰明さん。

面と向かったら言えないから、1つだけお願いを書かせてください。

どうか私が帰った後も、私のことを忘れないで。

龍神の神子としてでいいから。

私がこの世界にいたって、忘れないで。

泰明さんに忘れられるのは耐えられないから・・・

泰明さんが余計なものを嫌ってるのも知ってるけれど、どうか記憶の片隅にでもいいから私を住まわせてください。

最初で最後の、お願いです。



すみません。余計な事を書いてしまいました。

では明日、待ってます。



                                    あかね 











ぱさ・・・

淡香の紙を腕ごと膝に落として、それを読んでいた少女は真っ赤になった顔を隠すように山吹色の小袖のかた袖で口元を被った。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

(は、恥ずかしい・・・)

しばし恥ずかしさに耐えるように目を瞑った後、少女・・・あかねは自分の書いた文に目を再び落とした。

「これじゃあまるで告白みたいじゃない。」

もっともあの当時の泰明が気がついたとは思えないけれど。

・・・でなければ、あんな切羽詰まったセリフは出てこなかっただろうから。

(それにしても・・・)

あかねは目の前に置いてある蒔絵の綺麗な箱を見た。

中にはいく通もの淡香の文と、押し花にしてある藤の花房がいくつか。

・・・全部あかねが神子だった頃、物忌みに送ったものだ。

「なんで取ってあるのよぉ・・・」

「当然だ。」

「ひゃっ?!」

相手のないはずの呟きに背後から答えが返ってきてあかねは飛び上がった。

「や、や、泰明さん?」

あかねの振り返った先にはどこか不機嫌そうな泰明が立っていた。

「早いですね。」

「早くはない。もう、日は落ちたぞ。」

「え?あ・・・」

言われてみればもうすっかり外は暗くなっている。

どうやら午後になってから始めた片づけに熱中しすぎていたらしい。

「どうしてそれを見ている?」

「それって・・・あ」

泰明の視線が手元の文に向いている事に気付いてあかねはばつが悪そうに目を泳がす。

「え〜っと、その、お掃除していたら文机の下に隠してあったから・・・何かな〜って思って・・・」

「隠してあったものを見るのか?」

咎めるような口調にあかねはますます小さくなる。

「だって・・その、私に見られちゃまずいものなのかな〜と思って・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

泰明は黙ってなにも言わない。

別に怒鳴られているわけでも、咎められているわけでもないけれど、こんな視線の方があかねは何倍も落ち着かない。

「だって!だいたいなんで泰明さんってばこんな手紙取っておいてるの!」

とうとう沈黙に耐えかねたあかねが切れた。

しかし泰明はあっさり答える。




「当然だ、と言った。私があかねのくれたものを手放すはずがない。」




「!」

さっきにも勝るとも劣らないほど真っ赤になったあかねの頬に泰明はそっと指を滑らす。

「これはお前がくれた最後の文だな。
・・・これを受け取った時の私の気持ちがわかるか?」

真っ直ぐな視線に掴まってあかねは困ったように首を振る。

泰明はあかねを腕の中に閉じこめると囁いた。

「忘れるわけがない、と思わず呻いた。
私に人としての、これほどまでに激しい感情を与えた相手を忘れるなどできるはずがないと。
同時にひどく恐くなった。
私こそお前に忘れられるかもしれない。
自分の世界に戻ったらこちらでの事など、お前は忘れるだろう。
それが耐えられなかった。
忘れて欲しくなくて、側にいて欲しくてお前を引き留めた。
・・・・まさか、あかねが私の元に残ってくれるとは思わなかったが。」

普段の冷静沈着な性格からは考えもつかないような告白にあかねは首をふって泰明の胸に頬を寄せた。

「もう、泰明さんってばやっぱり鈍感だよ。
・・・だってこの手紙、泰明さんが好きですっていっているようなものだよ?」

「そうなのか?」

きょとんっとしている泰明にあかねは苦笑した。

一緒に暮らし初めてもう1年が立つが泰明のこういうところはちっともかわらない。

「そうなの。・・・・でもよかった。泰明さんが引き留めてくれて。だから今こうしていられる。」

「あかね・・・」

泰明は胸にすりついているあかねを剥がすと、その顎をすくい上げて頬を傾ける。

そして囁いた。

「側に、ずっと私の側にいてくれ。」

頷く余裕はあかねにはなかった。

すぐにあかねの唇は泰明の唇に塞がれてしまったから。





―― あかねの膝の上から、彼女の独身時代のラストレターがすべり落ちた・・・・










                                   〜 終 〜






― あとがき ―
このお話は「ネタがね〜〜(><)」っと絶叫した東条に友人の洛井が「んじゃラストレターっていう
お話書いてよ」と言ったのがもとになりました。
彼女は切ない系と、このほのぼの系と2パターン提案してくれたんですが、気分的にほのぼのの方
をチョイスさせてもらいました。
でも絶対八葉って神子からもらった文はとってありそうな気がするのは私だけ・・・?
ヤッサン以外にも永泉とか、詩文とか、頼久とか(笑)
なんにはともあれ洛井、ネタ提供ありがと〜!